僕は今、一本の道を選び、そこをゆっくりと降りてゆく


“神々の集う場所“を後にする


なぜ、僕はこの道を選んでしまったのだろう


綾波・・・・君が道を示してくれたから?


そう・・・かも知れない


でも・・・・


みんなに、もう一度逢いたかったから?


それは・・・少し違う


だって、L.C.Lの海を漂っていたときから、僕には、何となくわかっていた


みんなとは、多分もう逢えないって・・・








ただ、これだけはわかっていた


傷ついた、心と体を携えながら


けっして終わらない業火にその身を焼かれると知りながら


それでも


君は現れる


僕の前に


たぶんそれが・・・・理由なんだと思う


でもこんな僕の選択さえ、“彼ら”に仕組まれたものだったとは、この時はまだ気づいていなかった


“神”である僕にさえ・・・・











Episode.1  福音の終わり











あれから、もうどれ位になるだろう


最後の“墓標”を立て終えたシンジはふとそんな事を思った


ジオフロントの掘削が行われたそこは、今はもう外海とつながり、芦ノ湖は消滅していた。そこには“殉教”した数体のエヴァシリーズ、そしてリリスと呼ばれたモノの亡骸があった


有り合わせの杭を打ちつけただけの粗末な墓標に“葛城ミサト”の名を刻み、そこに“あの時”彼女から預かったペンダントをかける


『ミサトさん・・・・やっぱりこれは返すよ・・・・僕には必要ないものだし、ミサトさんが来ないことも何となくわかってた・・・・』


『それに・・・・』


『十字架なら・・・・間に合ってるから・・・・』


『・・・加持さんと・・・・お幸せに・・・・』








僕は波打ち際まで移動し、そこに腰かけた


『まるで、死の海だな・・・』


『この分だと・・・10人に1人再生するのも無理かも知れない・・・・・』





僕はL.C.Lの海に向けて“再生”のイメージを送り続けていた


だが、多くの魂はそれを拒んだ。


特に、僕の知っているネルフのみんなや友人たちの中に、“再生”を望む者は一人もいなかった








例えば、トウジには、妹の想いに殉じて戻る事を拒否された

彼女はずっと苦しんでいた。表面こそ気丈にしていたが、直る見込みのない体を抱えながら生きてゆく位なら死んだ両親の元へ帰りたいと願うようになっていた・・・・

“補完”の折に、彼らは素直にそれを受け入れた・・トウジを好きだった洞木さんも・・・・彼に付いていった・・・・

僕は・・・何度もみんなに呼びかけた・・・でも・・・


彼らの想いに迷いはなく、そしてそこに僕なんかが入り込める余地なんてなかった・・・・・








“あの時“綾波は自らを犠牲にして僕らの魂を開放してくれた・・・・そしてこの世界には今、A.T.フィールドが満ち満ちている


自らが自分自身を強くイメージする事が出来たなら、以前と変わりない状態で再生されたに違いなかった


だけど・・・・


体の傷がどんなにきれいに直っても、一度傷ついた心は、癒せないんだと、僕はその時はじめて気が付いた








『もう・・・終わりにしよう・・・・』





断念するのは口惜しかった・・・だけど・・・ 心が既にここにない人たちに、いつまでも気を取られているわけにはいかなかった








“福音の終わり”は、もうすぐそこまで来ていた









僕はL.C.Lの海に足を踏み入れる



そのまま少しずつ沖へ向かって歩いてゆく



そして胸までつかる頃、僕はその手でL.C.Lを抱きしめた



全身で“君”を感じたかった



そこには、悲しみが満ち溢れていた



君の苦しみが、満ち溢れていた



A.T.フィールドの本当の意味を、君はゆりかごだと思い込んでいた



自分自身を形作り、そして自分を守ってくれる母親の愛の具現化したもの・・・・生命のほとばしり、躍動する弐号機は、まさに拡大した君の心そのものだった。どこまでも君は、一人の人間だった



だがその想いは無残に潰された



君の無垢な魂は、穢され、傷ついた



死のイメージに、君の心は打ちひしがれていた



僕は全身全霊をあげて君を感じ取る



L.C.Lのうねりは君の心



揺れる



僕を受け入れたい心



僕を拒絶する心



それでも君は、少しずつ僕に近づいてくる



君が生まれ変わるとき、その心はどちらに振れているのだろう



僕は君を待つ



君を抱きしめるために



例えそれがどんなことになろうと



その先に待っているのが、終わりのない煉獄であろうと











『パシャッ!!』











波打ち際に、一人の少女が打ち上げられる


『・・・!?・・・・アスカ!?』


駆け寄ると、そこには生まれたままの姿でうつ伏せたブロンドの少女が、波に打ちつけられていた


僕は彼女をそっと抱き寄せた。左目は、その長い髪で隠れていた


顔にかかった髪を、僕は恐る恐るかきあげた。一瞬息を呑む


『・・アスカ・・・・よかった・・・・』


安堵のため息を漏らす。右手にも、ほとんど傷は残っていなかった


僕はYシャツを脱ぎ、それをアスカに羽織らせると、彼女を抱きかかえて歩き始めた。 そしてその愛らしい顔にほおずりした


『・・アスカ・・・これからは、ずっと一緒だよ・・・・』


涙が、止め処も無く溢れてきた











そして“福音”は終わりを告げる





“楽園への扉“は、永遠に閉ざされたのである 





2005/10/30 ケータイ版に掲載
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