TOKYO-4







第3新東京市・・・・それはかつて、アダム(リリス)を囮として使徒をおびき寄せ、これを殲滅せんが為に建造された使徒迎撃要塞都市であった。


27年前に地球を襲った“仕組まれた厄災”セカンドインパクトにより、人類は総人口の約半数を失った。そして12年前のサードインパクトの勃発から、無事人間として帰還を果たせた者はその1割に遠く及ばなかった。


総人口7000万人強・・・・・・それが今の人類の全てであった。





『・・・どういう・・・事なんだ?』


第4新東京市の主要ビルの沈降と兵装ビルの出現。突きつけられた現実は、シンジにとってまさに晴天の霹靂であった。今の平穏な時代に都市そのものが戦場になる事を想定する必然性など、全く考えられない事であった。いや・・・・・そもそもそれ以前に、今の疲弊した人類の状況を考えると、人的にも、経済的にも、このような建造物を建設する事自体、不可能に思えた。


・・・だが、事実である


『レジスタンスの噂も聞かないわよね』


『・・・うん・・・・それに、これは対人迎撃システムじゃない・・・今はケルビム以外のものが軍隊を持つことは考えにくいから、この装備は明らかに不自然だ・・・』


『・・・まさか・・・』


アスカが何かを言おうとしたが、シンジがそれを制した。


『それこそありえないよ!だったら僕らに黙っているはずがない』


『で、でも・・・・』


丁度その時、二人の足の下を松代から搬送されたリニアが通過していったのだが、無論シンジたちはそれに気付く事はなかった・・・そして・・・・・


『ブゥゥゥゥゥゥ・・・・ンンン・・ンン』


遠く北の空の彼方から、大気を振るわせるような音が微かに聞こえてくるような気がした。


『・・・何?・・この嫌な感じ?』


『・・・・何か・・・・来る・・・!』


シンジは北の空を見上げた。鉢伏山が視界を遮っている為、“不快な感覚”の理由が何なのかを肉眼で確認出来なかった。


『・・・松代の・・・方からだ・・・』


そして東山の頂上が分かれ、そこからミサイルポッドがせり上がってくる。


『シンジっ!!』


『うん・・・まさか・・・・あんなものが隠されていたとはね・・・』


『でも、いつの間にあんなものを・・?』


『・・第4新東京市が入植を開始したのは丁度一年前だよ。僕らも半年前まではドイツにいたんだ。多分それ以前に行われていたってことさ・・・・』


『・・・でも、それって変よ・・・・・今の人類にこれだけのものを造る余裕なんてないもの・・・・』





『パシュ――――――――――!!』





その時、山岳に装備されたミサイルが次々に発射された。目標はもうそこまで来ているらしかった。


シンジたちは、シェルターに逃げ込む事もせず、そこに立ちつくしていた。それは決して恐怖で動けなくなってしまったわけではなかった。普通の人以上に有事に敏感に反応するものの、同時に起きてしまった事に対して受身でいる事の危険性を知る彼らは、やみくもに逃げるより現状の把握を優先したのである。だが・・・・


『ちょ・・・ちょっと、こんな・・・』


ミサイル攻撃は止む事もなく果てしなく続いていた。一個師団でも現れない限り、これ程激しい攻撃をするなど、考えられない事であった。


《・・・・まさかこれほどの攻撃を加え続けなければならない相手だとは・・・・・》


二人の中で、嫌な予感が増大する・・・・そして・・・・


山の向こうで一瞬、十字の形をした閃光が上がる・・・・と同時に





『ドド―――――――ン!!』





二人の目の前で、ミサイルポッドが東山もろとも消滅した。


続いて第4新東京市の兵装ビルから、次々にミサイルが発射される。だがいずれの攻撃も、空中で遮られ自爆した。あたかも、大気中に見えない壁でもあるかのように、あらゆる攻撃が無力化されていた。


『うそ・・・・そんな・・・』


アスカはすぐにそれが何かに気付いた・・・いや、気がついてしまった。


『・・・AT・・・・フィールドだなんて・・・!?』


シンジは重い口を開いた。


『うん・・・間違いない・・・・・・』





『・・・・使徒だ・・!』





シンジはアスカの方を振り返った。子供たちは今、目の前で何が起こっているのかもわからずきょとんとしていた。だが・・・・・


『・・・・シンジ・・・・アタシ・・・』


アスカの表情は血の気を失い、まるで死人のように見る見る青ざめていった。今にも倒れそうだった。


『・・アスカ・・』


シンジは何も言わずアスカに寄り添いそっと抱きしめた。アスカにとって、12年前の出来事は『悪夢』以外の何物でもなかった。傷ついた心を、シンジに慰められ、二人寄り添いながらやっとの思いで生きてきたのである。


『シンジ・・・胸が・・・痛い・・・痛いよ・・・・』


『・・・大丈夫・・・・大丈夫だよ、アスカ・・・・僕が・・・・ついているから・・・』


シンジはアスカの華奢な体を壊れそうなくらい強く抱きしめた


『・・・・うん・・・・・』


シンジの胸に抱かれたアスカの頬を一筋の涙が零れ落ちる。シンジの言葉は、無論なんの根拠もない慰めではあったが、今にも崩れ落ちそうなアスカを支えるにはシンジの慈愛に満ちた、確信のある言葉が必要だった。


そして遂にその異形の者が第4新東京市に侵入し、その醜悪なフォルムをシンジたちの前に現した。不快な羽音を奏で、口からよだれのようなものを垂らしながら、毛むくじゃらの、まさに蠅の王といったその姿は、見るものの背筋をゾクリとさせた。


『・・・これが・・・・使徒!?』


それは、かつてシンジが戦ったどの使徒よりも醜悪で、邪悪な印象を受けた。少なくとも、神の使いにはとても見えなかった


『パパァ・・・きもちわるいよぉ・・』


ミサイル攻撃にさえ動じなかったサラだが、さすがにあの化け物の姿には強い嫌悪を抱いたようだった。


『あまり見ない方がいいよ、サラ♪』


『もう見ちゃったよう・・』


サラは泣き出した。











『【コードL】、リフトへの換装終了!』


技術局一課所属兼オペレーターの榛名の事務的なアナウンスが流れてくる。


『よし!そのままドグマまで搬送し、TURN-CROSSに固定する! 急げ!奴がもうそこまで来てるぞ!』


叢雲副指令が指示を促す。


『了解!リフト、降下します』


『東山地区のミサイルポッド、消滅しました!』


『A-1からF-1までの砲門を全てヤツに向けろ!時間を稼げ!』


『了解!A-1からF-1までの・・・・』


『予定より3年も早いか・・・・アレの準備はどうなっている?』


『素体のほうは現状のままで問題ないと思います・・・ただ、【D】の方が・・・』


情報分析担当兼オペレーターの由良が、歯切れの悪い返答をする。


『アレがどうしたというのだ?』


『それが、その・・・・いなくなってしまいまして・・・・』


『何だと!!! 由良、貴様今まで何をしていた!!』


『申し訳ありません・・・どうやら、目を離した隙に自分で発信機を外してしまったようです・・・』


由良の見つめるモニターには、Fブロックの一角に放置された発信機付きのアンクレットが映っていた。何か強力な力で引き千切られたような跡がある。


『言い訳はいいっ! BLOOD-TYPEから位置を特定出来んのか?』


『・・今のところ、無理ですね・・・・通常はパターンREDですので・・・『力』を使えば直ぐに特定出来るのですが・・・・』


作戦立案補佐兼オペレーターの那智が冷静に答えた。


『・・もう時間がないな・・・・止むを得ん、通常のダミーに切り替えて発進させろ!』


『し、しかし、あれはまだパーソナルのサンプリングが充分ではありません。・・・それに、加賀博士の許可もなしに・・・・』


反論する榛名に叢雲副指令がかぶってくる。


『そういう心配は生き残ってからにするんだな!』


『わ、わかりました!・・・プラグをダミーに換装!TEST-TYPE発進準備お願いします!』


『・・【D】の補足、忘れるなよ!』





《・・・・やはり、“本体”が近づいているので過剰に反応したのか?・・・・こんな展開は、俺のシナリオにはないぞ・・・・・なあ、海図よ・・・・・》





叢雲はひとり呟いた











“使徒”が市内へ侵入して、ケルビムの攻撃はより一層激しさを増した。そしてそこからそう遠くない所で、幼い子ども連れの夫婦がお互いに抱擁し合い佇んでいた。


それは傍から見れば、明らかに危険で異常な行動に思われた。だが、彼らにとっては、今目の前に迫る危険よりも、互いの身を寄せ心を通い合わせる事の方がずっと大切であった。





理不尽ではあるが、人とはそういうものである。





『マァマ、大丈夫?』


自分がどれ程危険な所にいるのかもわからず、サラは母親のスカートの裾を掴み、心配そうに見上げていた。


『・・・サラ・・・・ごめんね・・・ママ、もう大丈夫よ♪』


サラの声を聞いて我に返ったアスカはその場にしゃがみ込み、サラと同じ目線で優しく微笑んだ。 その顔は涙で泣き濡れ、マリンブルーの瞳の周りを真っ赤に染めていた。


そんな母子の様子をシンジは微笑ましく眺めていた。もうアスカは独りではない。シンジだけではなく、サラとハガルという二人の娘たちの存在が、彼女の心の支えになっていた。


『・・・・さぁ、もうここからは離れたほうがいい・・・・・シェルターへ避難しよう・・』


『・・ええ、そうね・・・ごめんなさい、あなた・・・・』


『・・・ん・・』


シェルターの入り口はもうすぐ目の前だった。一行がそこへ向かおうとすると、今度はハガルが愚図り始めた。何かに怯えているようだった。


『うあ〜〜ん、え〜ん!』


『ハガルったら、今頃になって怖くなったのね・・・大丈夫でちゅよ♪ママがいますからねぇ〜♪』


ハガルに気を取られていたアスカは、たった今その脇をすれ違った少女に気付かなかった。





だが、シンジは見てしまった。

















《・・・・・・えっ・・?・・??》

















《・・・・あや・・・な・・・み・・・?》











シンジは、軽い眩暈を憶えた





2005/9/16 ケータイ版に掲載
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