終局、そして・・・・
『・・・・・シンジ・・・・・』
『何を願うの?』
『・・・・・・あ・・・』
懐かしいその呼びかけに、シンジはゆっくりと目を覚ました。
『・・・・ここは?』
そこには、見慣れない風景が広がっていた。辺りはオレンジ色の厚い靄がかかっていた。そして目の前には、夕日のように赤く大きな『月』が浮かんでいる。
シンジは右手をついて身を起こそうとするが、そこにはあるべきはずの感触がなかった。
『・・・・接地感がない!?』
シンジはゆっくりと寝返りをうつように身をよじらせた。
大地と思われたそこには何もなかった。あるのはただ、満天の星空の海と、手を伸ばせば届きそうに見える地球の姿だけだった。
どうやらシンジは、ちょうど月と地球とに挟まれるような形で宇宙空間に浮かんでいるらしかった。
シンジはゆっくりと瞬きをした。そして再び目を開くと、そこには大きな月を背にしたユイの姿があった。
『・・・・・・かあさん・・』
まだ意識がぼんやりしている。
『・・・・ここは?』
『・・・ここは、L.C.Lの海・・・生命の源の海の中よ・・・ATフィールドを失った、自分の形を・・・そう・・魂の形さえ失った世界・・・・どこまでが自分で・・・どこからが他人なのかわからない・・・曖昧な世界・・・・』
ユイは続けた
『・・・・・・どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている、脆弱な世界』
『・・・僕は・・死んだの?』
『いいえ・・・全てが一つになっているだけ・・・・これがあなたの望んだ世界・・・そのものよ・・・・』
あそこにいた頃のシンジは、肉体は生きていてもそこには『彼』自身というものがなく、魂は常にデストルドー【死の本能】を志向していた。そしてそれが形而下・・・・実体化した世界・・・・それがL.C.Lの海だった。
『全てが・・・一つに・・・・・・・・!?』
シンジは自分の下半身の上に、ユイが馬乗りになっている事に気付いた。・・・かすかな襞のうねりが・・・・一つになっている感触が伝わってくる。
『あっ・・・・・・くっ・・』
《僕は・・・・かあさんと一つになっているの?》
『・・・そうよ・・・・これも・・・あなたの望んだ世界・・・・・』
L.C.Lの海の中でシンジを見下ろしながら、ユイは、そう応えた。
ユイが話しかける度に、そこは敏感に『ひくん』と小刻みに震えた。ユイの思惟が繋がった所から流れ込み、腹部から胸元にかけて愛撫されているような気がした。
『・・・これも・・・・僕が望んだって言うの?・・・・・・かあさん・・・・』
『・・・・そうよ・・・・これもあなたの・・・・望んだ事・・・・・』
『・・・そんな・・・・』
『・・・レイの中に、私を重ねていたのね・・・・・』
『・・・・・・違う・・・・』
『・・・こんなカタチでしか、かあさんを愛せなくなってしまったのね・・・・』
『・・・・・・・・・・・』
『・・・おとうさんと同じ・・・・憎いの?・・・・おとうさんが・・・・・』
『僕・・・・怖かったんだ・・・・・また、かあさんに捨てられるんじゃないかって、・・・・・だから父さんを殺した!そしてこうすれば、僕はずっとかあさんと一緒にいられると思ったから・・・・・でも・・・・・』
『・・・・でも?・・』
ユイの想いが一つになった処から伝わってくるのがわかる。
シンジに委ねられた選択肢は3つあった。
このままL.C.Lの海でユイと共に永遠の安らぎの中に溺れる事・・・・・・・或いはエヴァという具象化された神の魂として、永遠に生き続ける事・・・・・そしてもう一つ・・・・・再びヒトとして再生し、限りある命の迸り・・・その喜びと悲しみを繋いで生きていく事・・・』
『あそこには、僕がいなかった・・・・だから、逃げ出しても・・・・
逃げ出さなくても・・・・・同じだったんだ・・・・・』
『・・・ええ・・・・・・・そうね・・・・・』
『今ならわかる気がする・・・・・ゼーレの言う形而上の神でもない・・・・母さんの言う、具象化された神もちがうと思う・・・・・・・それは・・・・・・確かに安らぐし気持ちいいかも知れないけど・・・・・・
それは違う・・・・違うと思う・・・・・・・
それは何も生み出しはしないよ・・・・・・・・・そこに僕が・・・・・みんながいないもの・・・・・・』
『・・・だから・・・・僕は・・・・』
シンジは、《僕はもう覚悟は出来ている。もう一度みんなに逢いたい、
碇シンジに戻りたい》と言いかけたが、何故か言えなかった。
『・・・・・・何を迷っているの?』
《迷ってる!?僕が!?》
『・・・シンジのいう事・・・・・本当に・・・・そうかしら?・・・』
『・・・・どういう事?』
『・・・・・・・・』
『かあさんっ!』
《・・・何だろう・・・この感じ?》
シンジは強い不安に駆られた。だがその理由が何故だかわからない。何かに助けを求めるでもなく、シンジはユイから目を逸らした。
見渡すかぎり荒涼としたL.C.Lの海。魂の地平が、遥か彼方まで広がっていた。
穏やかで心地よい、そして永遠のやすらぎと何物をも生み出さない脆弱なイメージが、シンジに不安の理由を何となく気付かせた。
『あの・・・・かあさん・・・』
『なぁに?』
微笑をたたえたまま、ユイはシンジの右掌をそのふくよかでやわらかな乳房へと引き寄せた。
屈託のない母親の笑顔と、幼少期以来忘れかけていたやわらかな胸の温もり、そして成熟した女の体の愛媚な誘惑をもう少し味わっていたかった。
《・・・なんて・・・・心地いいんだろう・・・・・》
《ずっと・・・・こうしていたい・・・・でも・・・》
少し躊躇ったが、思い切ってシンジはこう切り出した。
『・・・・自分自身を・・・・・強くイメージすれば、元に戻れるんだよね?』
『・・・そうね・・・』
ユイは優しく答えた。
『でも、それが出来る人はどれ位いるの?・・・・ほら、アスカや、ミサトさんや加持さん、リツコさんやトウジやケンスケ、それに・・・・父さんも・・・・』
そこまで言いかけた時、
『・・・・・・あ・・・』
と、微かな愉悦と共にユイの体が少し震えたような気がした。心がざわついた。
《・・・えっ!?》
シンジは、恐る恐るユイの顔を見上げた。その表情はほんのりと上気して赤みを差し、その瞳は虚ろにシンジを見つめていた。
シンジは不覚にも、そんな自分の母親をかわいいと思ってしまっていた。
《・・・まさか・・・》
その様子を見てとってか、ユイはシンジの唇を指でなぞり、身を乗り出してそっとキスをした。
『あ・・・・・かあ・・・さん・・・・・』
ユイの成熟した乳房がシンジの胸にそっと触れた。シンジは自分自身が力強くなっていくのを抑えきれずにいる自分を恥じた。
『あっ・・・(ビクッ)』
快楽の波がシンジの下半身に押し寄せてきた。琥珀色の瞳の奥には、実の母に欲情した自分の顔が映って見えた。
『だ・・・・・ダメ・・・かあさ・・・ん』
自己嫌悪を感じながらも甘美な誘惑に意識が遠のいていく自分がそこにいた。
『うあっ・・・・はあっ・・・っつ』
《引き込まれる!?》
『母さん、どうして?・・っつ』
『・あ・・・・あ・・・し・・・んじ・・・お願・・・い・・』
ユイはシンジの両掌を胸元に引き寄せた。母親とは思えない、まるで少女のようなピンク色の乳輪を実の息子の指で転がさせ、愉悦の表情を浮かべていた。
『あ・・・か・・・かあさんの・・・あっ・・』
シンジの欲情はピークに達していた。かつてシンジが通ってきたその径は、今、実の息子を受け入れ、その襞の一つ一つが貪欲に絡み付いていた。
『うっ、あっ、も、もう・・・』
ユイの責めに耐え切れなくなったシンジは、快楽を断ち切るかのようにやや強い口調で再び問い詰めた。
『教えてよ、母さんっ!』
搾り出すように吐き出した言葉だったが、語尾には力が入らなかった。
『あっ・・ああっ・・・シンジィ・・・っちゃう・・・あ・・・』
その瞬間にユイは果てた。絶頂感からの余韻で、まだガクガクと震えていた。
一つになったままユイはシンジと体を重ね合わせ、むさぼるようにシンジの唇を奪った。ねっとりとした舌が、シンジの舌に絡みついてくる。
シンジの・・・・見たことのないユイのオンナとしての姿がそこにあった。
L.C.Lの海で、かつて母と子と呼び合った一組の男女が寄り添っていた。
女は正座から少し足を崩して座り、男は女の膝枕をして横たわっていた。
『どうなの?・・・・さっきの質問だけど・・・・』
『・・・・・いいわ・・・教えて・・・あげる・・・・』
女は微かに息を荒げながらそっと口を開いた。
それはほんの数秒の出来事に過ぎなかったが、まるで時間が止まっているかのように長く感じられた。
『・・・人に戻れるのは・・・・・・あなたと・・・』
『・・・アスカだけよ・・・』
『!!!』
男は、女にに問いかけた事を後悔した。