アスカ、再び(2)<noch einmal von vorne anfangen.>












アスカは、僅か数分の戦闘映像を見ただけで、そのただならぬ力を感じていた


サード・チルドレンの実力を瞬時に見抜く





アスカは・・・・脅威を覚えていた・・・







“碇シンジ”







《コイツは只者じゃない》





アスカにとって彼は、全力を傾けて倒さねばならないターゲットへと変わっていた





『・・・コイツは・・・・』














『・・・“敵”だ!!』













同じ使徒を敵として共に戦う仲間・・・そのチルドレンを倒さねばならないとは穏やかではないが、アスカにとってはその言葉通りであった















(弐)脅威














その5分前






アスカは、加持から借りたPDA端末を起動させていた




“S.Ikari”のフォルダをクリックする


そして“1st Attack”とあるファイルを選択


程なく・・・・第3使徒サキエルとの戦闘映像が再生される


そして初号機が射出口からカタパルトへ固定されると、ビデオの再生を止める




《・・・これが・・・初号機・・・・》




自身の操る“弐号機”との、その外見的な違いに少なからず驚く


特殊装甲と光学レンズとに覆われた弐号機の頭部と違い、初号機には人工的なモニターらしきものがなく、拘束具の隙間から“素体”の目だけが妖しく覗いていた




《・・・何?・・これ・・・》




あまりに生物的な面構えに、アスカは戸惑う




《・・・何で・・・コイツ裸眼なの?》




実際、光学レンズはエヴァの視覚を補足するためのものではあっても、必ずしも必要なものではない


エヴァは自らの“目”でモノを見ている

素体の“目”によって捕らえた視覚情報は、視神経を経由してエントリープラグに伝達され、それがモニターに再現される



要するに、パイロットはエヴァと視覚を共有しているのである



だがそれ故に、もし戦闘中にエヴァが目を損傷した場合、パイロットは外部の視覚情報を失い戦闘に重大な支障を来す事になる


単眼の零号機はともかく、弐号機にとっての光学レンズは“素体の目”を保護する事が主な役割となっていた




だが、そういう事とは関係なく







《・・・・気持ち悪い・・・》







エヴァの本性をあえて隠そうとしない初号機の面構えは、アスカに生理的な嫌悪感を抱かせていた





そんな事を数秒思い


アスカは初号機に対する思考をスッパリ切り捨て、そこに搭乗しているパイロットに意識を集中する




《・・・そしてこれが・・・・サード・チルドレンの初陣ってわけね・・・》




これは・・・アスカのいつものやり方であった




彼女の見立てでは、着眼点は2つ

初めての使徒

それに対し、自分だったら瞬時にどのような判断をし、どう対処するかのシミュレート

そして、サード・チルドレンとの比較・・・・・である




アスカは先入観を排除するため、まずは自分が戦っているつもりでイメージを構成する






そう・・・・彼女は、これからイメージの中でシンジと覇を競おうとしていた





プライドを賭けた・・・・アスカの戦いだった








アスカは目を瞑り、ほんの数秒間瞑想する


そしてゆっくりと深呼吸をして・・・・ビデオの再生ボタンに指を降ろす






《・・・アスカ・・・行くわよっ!》






『カチッ』




ビデオが再生される




リフトオフと同時に高まるテンション

アスカの“気”が高まり、周囲の空気がちりちりと音を立てるような錯覚を覚える・・・




モニター越しに使徒の姿を確認する

その形態からどのようなタイプで、どのような攻撃を仕掛けてくるのかを予想する。

ケース・スタディは、アスカの最も得意とする処でもある




《・・・ヒト型の使徒・・・・当然両手は使えると考えるべきね・・・》




《・・・あの、掌の穴のようなものは何?・・・飛び道具も・・・・あるかも知れない・・・》




《・・・いずれにせよ、止まっているのは危険だわ・・・》




・・・と、同時にアスカのイメージする弐号機は右へ跳んだ


その直後、サキエルの目のような部分が一瞬発光したかと思うと、次の瞬間にはそこから怪光線が発せられた

背後を振り返ると、近隣のビル群が消滅し、ジオフロントの隔壁が幾十にも損壊していた




《・・・やっぱりね・・・》




アスカの読みは正しかった・・・・・が・・・・




《・・・初号機!?・・・・何故避けないの!?》




映像の初号機は、特に回避行動を取らずに真っ直ぐに使徒へ向かって突進しているように見えた




《・・バカッ!!・・・狙い撃ちじゃない!!》




というより、先程発せられたはずのサキエルの第一射は初号機に当たっていない事に気付く




《・・・!?・・どういう事?》




まるで初号機が囮のような展開になり、アスカは右サイドからパレットガンで攻撃を仕掛ける形になっていた。

本来ならこれで少しは使徒の矛先を自分に向けられるはずだが、これは既に終了した過去の戦闘映像の録画でしかない


アスカは更に接近し、A.T.フィールドを中和しながらプログナイフを抜く




『こんのおおおおおおおおお――――――――っ!!』




『ドスッ!!』




イメージの弐号機は使徒の後背部にプログナイフを突き立てた

だが、サキエルはそれに構わず第二射を初号機に向けて発射した(当然だが)


使徒に有効なダメージを与えたと判断したアスカは、とりあえず戦闘を終了させる




《ま、厳密にはこれで終わりじゃないけどね・・・》




初見では、ファースト・アタック以降のイメージを構築することは困難だからである


そして初号機の出方を伺う




《・・・!?・・・あれは・・・・》






・・・アスカは見た・・・






初号機はわずかに身をよじり、最小限の動きでサキエルの光線をかわしていた




《!?》




《・・・そ・・・うか・・・・・》




アスカには、初号機が何をやったのかすぐに気がついた




《・・・やるわね・・・・でも・・・・》




《・・・これって・・・・》






アスカは眉をひそめる






『・・・すごいな!・・・どうして彼はあんな風に攻撃をかわせるんだい?』



途中で加持が口をはさむ


彼にとっては既知の映像であるにもかかわらず、大げさに驚いてみせた

まるで、アスカから何らかのリアクションを期待しているかのような物のいいよう・・・




・・・これも・・・・加持のアスカに対する“いつも”のやり方だった




これに対し、アスカはモニターから目線を外すことなく、淡々と語りはじめる


『・・・・・かわすの自体は、たいした事じゃない・・・光線が出る直前にあの変な顔みたいなのが一瞬光るでしょ・・・ターゲットはこっちなんだから、タイミングを合わせてかわせばいいのよ・・・』




その様子は・・・・誰かに語るという風でもなく・・・・そう・・・・




まるで・・・自分自身に語りかけているかのように






加持に話しているという自覚はない


それ程までに目の前の映像に集中していた






《・・・・ま、それがわかるだけアスカも大したものなんだが・・・・・》








アスカは格闘術、特に打撃系や抜刀術の達人である




そしてその基礎を仕込んだのは他でもない加持本人であった




実際、何の気なしに語られているアスカの言葉は、格闘の達人でなければ知りえない事である

そしてその実力は、一対一ならば戦闘のプロである戦自隊員でさえ寄せ付けない・・・・・

獲物を持たせれば当の加持でさえ手を焼く程であった




チルドレンという立場上、護身の意味合いもあって身に付けさせたものだが、その真の目的はエヴァの操縦技術の向上にあった


エヴァによる戦闘は、対使徒戦という性質上、どうしてもA.T.フィールド中和による近接戦闘が主体とならざるを得ないため、格闘戦に優れているか否かは戦いのイニシアチブを握る上で重要なファクターとなる

近接戦闘は、通常パイロットの恣意がエヴァの動きに反映される高機動モードで行われる

これは同時に、エヴァの動きのフィールがパイロットにフィードバックされる事になるため、パイロット自身の身体能力が高ければ、感覚的にエヴァの動きや姿勢をトレースしやすくなる




結果、アスカはシンクロ率では推し量れない高い戦闘能力を有しているのである





だが・・・





それは裏を返せば、アスカの戦闘力はもはや極限まで突き詰められた状態であり、もうこれ以上の目覚しい向上は望めない事をも意味していた


そういった要素を加味して、この時点でのアスカとシンジの戦闘力はほぼ互角であったと言える





・・・・ただ一点を除いては・・・





《・・・・あんなのは、別にアタシにだって出来る・・・》





問題は、そんな事ではない





《・・・アタシは・・・使徒がどのような特性があるのかを知るまでは迂闊には手を出さなかった・・・



・・・なのに・・・・》





なのにである




《・・・アイツ・・・まるで使徒の攻撃パターンを知っているかのような動きだった・・・》




事実、アスカはサキエルの初撃をかわす事で、怪光線発動の予備動作を確認したのである

だが、初号機は攻撃の瞬間を知らないハズの初撃から、見事に回避していた





《・・・あり得ない・・・》





《・・・あるとすれば、初めて見せた動きに合わせて回避行動を取るしかない・・・・》






だが・・・






《・・・もし何の予備動作もなかったらどうする気だったの?》






いや、そもそもそれがそうだとどうしてわかるだろう?

第一、使徒の攻撃の精度を見切っていなければ、最小限でかわすことなどとてもかなわない

それこそ賭けになってしまう



これから先も、使徒と戦い続けなければならない事を考えると、この局面でリスクを負う必要は全くない






《・・・つまり・・・・確信があった・・・?》





シンジの戦い方は、ある意味達人の領域を超えていた・・・・


それはアスカにとってさえ解析不能・・・・いや・・・

















一つの推論に帰結せざるを得なかった・・・

















それからの初号機の・・・・いや、サードチルドレンの戦い方は尋常ではなかった



パレットガンの軸線を使徒に合わせてビルに突き立て、フルオートにして離脱

乱れ撃ちに気を取られる使徒を尻目に一気に間合いを詰める




『・・・疾いっ!!』




あまりの疾さ・・・初号機の瞬発力にアスカは一瞬舌を巻く

反動でビルが崩れ落ちる頃には、掴みかかろうとするサキエルの両の腕を絡め取っていた






そして・・・






『ビキィッ!!』






“握撃”で握り潰す






握り潰された使徒の両手首がぐんにゃりと力なく垂れ下がる

まるで枯れて萎れた花のよう・・・




『何てパワーなのっ!!』




アスカには思いつきもしない戦い方・・・・だが、サキエルも負けてはいない

両腕を潰され、光の矢を使えなくなったサキエルの目が一瞬光る

この至近距離から“怪光線”を発しようとした刹那・・・・




『グシャッ!!』




初号機の“蹴り”がサキエルの顔のようなものに容赦なく炸裂する

蹴り足をよけると、それはぐしゃぐしゃに粉砕していた




さらに・・・




『バキィ――――――ッ!!・・・・ブチブチブチ・・・ビチィ――――ッ!!』




二度目の蹴り




使徒を渾身のやくざキックで蹴り飛ばす
両腕を絡め取った事で効率よくパワーが伝達され、コアに無数の亀裂が入る。


両の腕はいやおうなしに引きちぎれ、サキエルは数キロ先まで吹き飛んだ




『・・・えげつないわね・・・』




こういう戦い方はアスカの美意識に反する






『・・・でも・・・・』






その直後、初号機は使徒に向けて猛ダッシュを開始

兵装ビルの間を・・・信じられない速度で猛然と駆け抜ける





まとわりついた大気を力ずくで引きちぎる






・・・そして遂に・・・










―――――音速を超える―――――










衝撃波で、ビルがまるで砂の城のように崩れてゆく



『・・・・すごい・・・』



圧倒的な”力”の前に、アスカの全身に鳥肌が立つ



膝が・・・・ガクガクと震える



初号機はまるで走り幅跳びのように『ドウッ!』っと跳躍すると、綺麗な放物線を描き宙を舞う



そして勢いそのままに動きの止まった使徒の真上に踏みつけに着地する




『グワシャッ!!』




使徒の胴体らしきモノがあり得ない方向にへし折れる




目の光が・・・・明滅する




そして・・・




『ドスッ!!』




使徒はA.T.フィールドを展開する間もなく、そのままコアにプログナイフを突き立てられる



壊れかかっていたコアは、ずぶずぶといとも簡単に初号機のプログナイフを飲み込んだ

使徒は数秒の間ピクピクと痙攣していたが、やがてぐったりと力尽き・・・









そのまま動かなくなる






















それで終わりだった























《・・・・ぐ・・・うっ・・!・・》




ギリと歯軋りをする




固く握られたこぶしが、打ち震えているのに気付く









これは何?









悔しさ?









嫉妬?









それとも・・・

























恐怖?



























《・・・アスカ・・・》





これまでのアスカの歩みの中で、当然の事ながら彼女より優れた人物は少なからず存在した

だが、アスカは持ち前の闘争心とバイタリティーで、その誰をもことごとく打ち負かし、前へ進んできた





・・・しかし・・・





《・・・流石に・・・今度ばかりはそう簡単にはいかないだろうな・・・》





加持は・・・単なるアスカのお守りではない

彼の役目のひとつは、アスカをよりよい方向へ成長させるための水先案内人・・・

言わば“舵取り役”でもある


そのためには・・・・




時にアスカを追い詰め、傷つけることもあった





《・・・あまり気は進まないが・・・》





加持は重い口を開く





『・・・・・・アスカも気付いてると思うが、彼の戦い方は先読みというか、えらく勘がいい・・・・』


『・・・・・・・・・・・・・』


『短時間で使徒の攻撃を見切り、ことごとく先手を取っている・・・・・そしてあのスピードとパワー・・・・・いやはや大したもんだ・・・』





客観的な事実をさらりと言ってのける加持

しばし憮然とするアスカだったが、それでも加持との長い付き合いは伊達ではない

アスカは、加持の事をよく知っている




《・・・加持さんてば・・・そんなに心配しなくてもいいのに・・・》




自分を奮い立たせるためにワザとそういう言い方をしている事くらい、とうに気付いている

それでも、とアスカは思う




『・・・そういうのとは、ちょっと違うと思う・・・・』




それは、決して負け惜しみから発せられた言葉ではない

先読み・・・勘・・・そんな言葉では説明出来ない何かをアスカは感じ取っていた







そしてもう一つ







アスカには腑に落ちない点があった







『・・・ねぇ、加持さん?』


『ん?なんだ?』


一瞬の躊躇いの後、アスカは加持にこう切り出す


『・・・この・・・・赤い光球みたいなのってなぁに?』


『ああ・・・それはコアといって、いわば使徒の急所だな・・・』


『それはいつわかったの?』


『・・・公には、この戦闘でその可能性が示唆され、第4使徒シャムシエル戦で明らかになったとされているな・・・』


『・・・・公には?・・・・どういう事?』


アスカは加持の言い回しが気になった


《・・・まるで・・・非公式には知られていたとでも言いたげ・・・・だけど・・・・》



『ん?・・・ああ、いや・・・言葉のアヤだよ・・・・深い意味はないさ・・』


『・・・でも・・・・』


そう言いかけて、アスカは口を噤む


彼自身がとぼけている以上・・・・加持の口から答えを引き出せない事を、アスカは知っている






加持は、一般のネルフ職員とは違う




何か窺い知れない世界に足を踏み入れているらしい事は、幼い頃から何となく感じていた



でも、アスカはそれを口にしない



加持さんはやさしい・・・



いつだって自分のことを受け止めてくれた



・・・信頼・・・できる・・・・





でも





彼にとっての自分は、はたしてそうだっただろうか?





こんなに・・・加持さんのことを想っているのに・・・・





ずっと・・・想い続けてきたのに・・・





どうして・・・・話してくれないの?





《・・・私は・・・加持さんにとってなんなの?》





問い詰めようとしても・・・





多分、答えてはくれない





彼との間には、目に見えない壁がある





その先にあるのは絶対的な拒絶・・・・





この自分でさえ、決してそこには触れさせてくれない








もし問い詰めたら・・・・・彼を失ってしまいそうな気がして・・・・・・













なにも・・・・言えなかった















『・・・・・・・・』




複雑な表情を浮かべるアスカを見て、加持の瞳が翳る




《・・・・・・・この子は・・・・・・・》




自分の立場を察して、必要以上に追及してこないアスカ・・・


確かにその判断はお互いのためにも賢明であった


だがそれは、13才の少女のものではない





年相応なら、なまじ頭が冴える事を鼻にかけ、執拗に追求してくるだろう・・・





《・・・アスカ・・・・お前は・・・・》





この、小さな体にどれだけのものを抱えて生きているのだろう


アスカの気持ちを知っているだけに、不安に怯える瞳が胸に痛かった・・・


あまりにも・・・大人びてしまったこの碧眼の少女を・・・・





加持は不憫に想い、ふいに抱きしめたくなる





『・・・どうしたの? 加持さん?』


急に黙り込んでしまった加持を不審に思い、アスカが顔を覗き込む


『・・・ああ、すまん・・・何でもない・・・・・・他に・・・・気になることはあるか?』


アスカに気取られるのを恐れた加持は、話の矛先を変える


『?・・・・じゃあ、彼・・・・サード・チルドレンがコアを攻撃したのは何故?』


《・・・ほう・・・そう来たか・・・》


加持はアスカの発言を聞き、口元に微かな笑みを浮かべる





それは加持自身もうっすらと感じていた事であった。

碇シンジ・・・・確かに彼は、それとなくではあるがコアに意識を集中して攻撃しているように思えた




『・・・・偶然だろう?』


加持はとぼけて見せた・・・・が、


『ふん・・・・アタシの目は節穴じゃないわっ!』


加持のもったいぶった言い回しにアスカは少しイラつく


『・・・あの蹴り・・・間違いなくコアを狙っていたわ!・・・それも・・・・渾身の力を込めてねっ!』


アスカの言葉は、ほぼ確信に近かった



そしてぽつりと呟く





『・・・彼・・・・・何者なの?』




『・・・・・・・・』




『・・・・あの子、まるで使徒の事を初めから知っているみたいな戦い方だった・・・』




アスカは、胸の内に抱いていた疑惑・・・・核心をつく


加持は暫し沈黙し、少し考えてから答える


『・・・・それはないな・・・・誰も・・・使徒の事なんて事前に詳しくはわかっていないハズだ・・・』


『それが解せないのよねぇ・・・・』


『だが俺の知りうる限り、事実だ・・・・納得いかないか?』


『・・・まあ・・・ね・・・』


『・・・彼特有の・・・そうだな・・・・勘・・・だとは思わないのか?』


『勘には勘の動きがあるわ・・・・彼のあの動き・・・・あれはそんなんじゃない・・・』





《・・・さすがはアスカ・・・鋭いな・・・》





実は・・・加持もアスカと同じ印象を抱いていた





“勘”というには、あまりにも初号機の動きは実に淀みなく安定していた


閃きの要素は一切感じられない





そう・・・まるで全てが予定調和であるかのように・・・





彼の攻撃は、一つ一つが実に的を得ていた





使徒の持つ攻撃手段を確実に潰し、そしてコアへの徹底的な攻撃

ほとんど成す術もなく倒されてしまったと言ってもいい

“使徒”が持つと言われる絶対防壁“A.T.フィールド”の発動も確認出来なかった




《・・・多分・・・展開する間もなかったんだろうな・・・》




あの戦いは、近接戦闘で既に雌雄が決していたと言っていい

初号機に蹴り飛ばされ、フィールドを展開出来る間合いに離れた使徒は、既に虫の息だった








《・・・まったく・・・こっちの方が知りたいよ・・・・・・・・・彼の・・・・正体・・・・・》








ふと気が付くと・・・・月明かりに照らされたアスカの美しいブロンドの髪が風にたなびいている


さっきまで凪いでいた海が、少しだけ荒れ始めていた





加持は潮風に湿る煙草をデッキに放ると、しばし逡巡する・・・・







《・・・委員会は・・・・まだ彼の尋常ならざる能力に気付いていない・・・?》


先日極秘裏に行われた謁見でも、まだ彼のそういった話は出ていない





《・・・まあ、俺の前でそういう話をしないだけかも知れんが・・・》






『・・・改めて言おう・・・・使徒の存在はわかっているが、その詳細は誰も知らない・・・・そいつは間違いないな・・・』


『・・・絶対?・・・・間違いなく?』


『・・・ああ・・・・間違いない・・・』



それを聞いてアスカはガックリと肩を落とす




唯一知りたかった、アスカの・・・心の拠り所・・・

ひょっとしたら、サード・チルドレンは父親である碇司令から使徒の情報を入手し、それを元に戦闘を優位に進めたのではないかという淡い期待・・・




シンクロ率では確かに負けている


でも、もし彼が事前に使徒の事を知っていたのだとすれば、実力で自分と彼との差は殆どない事になる





・・・・そう思いたかった





だが・・・・





それが、脆くも崩れ去る




《・・・わからない・・・・サード・チルドレン・・・・碇シンジの、あの自信に満ちた戦い方・・・・》



《・・・・・これが人間の戦い方なの?・・・・しかも・・・あんな・・・・・・》



























《あんな子供なのにっ!!》




そういうアスカは、自分も同じ子供であるという自覚が欠落している


そんな感覚は、とうの昔になくなっていた

普通の子供のように甘える余裕など、始めからアスカにはない・・・なかった・・・・




それだけに




アスカは・・・・この少年に畏怖を覚えていた


自分はもうチルドレンとしてはベテランの域にある

それなのに、パッと出の新人であるこの少年にあっさりと抜かれてしまった

初めて操縦したというその戦いの映像から


アスカは・・・・何か得体の知れない”力”を感じていた



そして・・・・・







それは自分にはないものだと感じた







『・・・本人は、わけもわからずネルフ本部に呼び出されていきなりエヴァに乗って戦えと言われたらしい・・・・・
ま、彼からすれば迷惑な話なんだろうが、まさかこれほどの才能があるとはな・・・・・』



そんな加持の言葉をアスカは空ろに聞き流す


『・・・全く、どうやったらあんな戦い方が出来るのか不思議だよ・・・・』





アスカは・・・先程まで加持にせまっていた事など、もうすっかり忘れていた





彼女の存在そのもの・・・・アイデンティティーに関わる碇シンジの出現にアスカは動揺し、口数も目に見えて少なくなる



《・・・でもね、加持さん・・・》



誰にも・・・・加持にさえ言えない想いを心の中で呟く






《・・・・それでも・・・・》






《・・・アタシは・・・誰にも負けるわけにはいかないのよ・・・・・・》






アスカは無言で端末を閉じる





そして・・・・・





『・・・加持さん・・・・』




『・・・・なんだ?・・・』



『・・・“コレ”・・・借りててもいいかな?』



『・・・・・・・・』



『・・・・・もう少し・・・一人で調べたいの・・・・・』





第3使徒サキエルとの戦闘だけで、碇シンジの底知れぬ実力の一端は伺えた・・・


あとは・・・残り二体の使徒との戦闘映像から、彼の得体の知れない“力”の正体・・・核心に迫れないだろうか?


そう・・・思っていた





アスカは・・・・プライドが異常な程に高い


今までも人前でライバルのデータを貸してくれなどと、決して口にした事はない

にもかかわらず、プライドをかなぐり捨てたアスカのこの行動には・・・・



もう絶対に負けられないという悲壮な決意が伺えた




加持は・・・・久しく見られなかった彼女の本当の“本気”を見て、胸が痛む





《・・・嫌な・・・役回りだな・・・》




わかっていたこととはいえ、ここまでアスカを追い詰めなければならない自分を、まるで人事のように酷いヤツだと思う・・・・




『・・・ああ・・・・かまわんよ・・・』





せめて・・・加持はアスカの申し出に快く応じ、優しく微笑む



そんな加持の思いとは裏腹にアスカは頬を染める




彼女にしてみれば、これは自分自身の問題であり、加持の懸念など全くのお門違いであった

アスカにとって、いつだって加持はやさしかった

ただ一人、自分のことを理解してくれる存在・・・・

決して甘やかさず、時に本気で叱り、でも優しく自分を導いてくれる・・・



信頼と敬愛を抱いてやまない加持に対して、恨み心など芽生えるはずもない




ただ・・・・




今更ながら、加持に全てを見透かされているようで何だか恥ずかしかった







それだけだった






『・・・ありがと・・・加持さん・・・』


そう言うと、アスカはデッキを立ち上がり、ちらと加持を一瞥すると小走りに階段を駆け下りていった





その後姿を見送りながら、加持はほっとため息をつく


『・・・まあ・・・なんにしてもだ・・・』


そう言いながら煙草を取り出そうとするが


『ん?・・・・あれェ?・・・切らしちまったか』




《・・・やれやれ・・・》




殻の箱を握りつぶしながら加持は立ち上がる

















『・・・ようやく"ein brachliegendes schoenes Maedchen"(お姫様)のお目覚めだな・・・・』

















そこは、空母オーバー・ザ・レインボーのコンバートメントの一室


黒服にサングラスという、いかにも場違いな二人の屈強な男が、その扉の前に陣取り周囲に睨みを効かせている


その扉には【セカンド・チルドレン ミス・惣流・アスカ・ラングレー】とある



人類の最後の切り札である、人造人間エヴァンゲリオン


そのパイロットとして数少ない“適格者”の一人であるアスカの為に付けられた護衛


太平洋艦隊の旗艦において、そのような護衛をつけねばならないという事実が、ゼーレ貴下の国連軍にあってさえ、その共闘が決して一枚岩ではない事を伺わせた




『ちょっと大げさすぎんのよねぇ・・・』


アスカにはわからなかった


いや、正確にはその意味するところは理解している


だが


自分たちは人類共通の“敵”に立ち向かおうとしている


なのに何故“対人用”の護衛が必要なのか?


同じ人間同士で足の引っ張り合いをしている場合じゃないのに・・・




『・・・これだから人ってやつは・・・』


そういいかけて、先日自分が将棋の駒を燃やしてしまった件を失念していた事に気付き、思わず苦笑する


『そりゃそうよね・・・・実の母親だって信用できないんだもの・・・・』



『他人を信用出来なくたって当然・・・』







『みんな・・・・おんなじか・・・・』







アスカは、入り口で陣取る二人の護衛に気さくに話しかける


『Guten Abend! 精が出るわねェ!』


『いえ、これも仕事ですから・・・・!?・・・・彼は・・・・一緒ではないのですか?』


黒服は、加持の姿が見えない事に気付き、怪訝な表情を浮かべる


『ええ、さっきデッキで別れたの・・・そんなに心配しなくても、こんな船の上じゃ誰も襲ってきやしないわよっ!』


『いえ・・・敵は外からだけとは限りませんので・・・』


『・・・考えすぎじゃない? そんなんじゃ将来ハゲるわよっ☆』


『・・・・惣硫さん・・』


『・・・なに?・・・』


『・・・失礼ですが、貴方はもう少しご自分の立場という・・・』


黒服がそういいかけてアスカはその先を制する


『・・・わかってるわよ・・・ごめん・・・』


『いえ・・・次からは彼から離れるときは我々に連絡して下さい』


『うん・・・そうする』






彼らは彼らなりにアスカに気を使っていた


いくらなんでも年頃の女の子一人に男二人が四六時中ついて回るのは何かと都合が悪い

だから加持が護衛に付く時と、コンバートメント内だけは自由にさせてもらっていた






『・・・・ねぇ・・・・一つ、聞いていい?』


アスカは黒服の一人に尋ねる


『・・・なんでしょう?』


『アタシの護衛なんかしてて楽しい?』


『・・・・・・・』


無論、そんな意味で聞いたのではない


“要人”の護衛という、あまり割に合わない仕事に対してのアスカの素朴な問いであった


何もなければいい


だが、ひとたび彼女の身に危険が及べば、その身を挺してアスカを守らねばならない


死ぬことだってある







『・・・・他の者はどうか知りませんが・・・・それが職務ですから・・・』


『・・・アイデンティティーのために死ねるって事よね?』


『・・・それは貴方も同じなのではないですか?』


『ううん・・・アタシは違う・・・』


『・・・・・・・』


『アタシは・・・・アタシの全存在を賭けて・・・・生きるの・・・』


『・・・・・・・』


『・・・ごめん・・・アタシ・・・変なこと言ってるね・・・』


『・・・いえ・・・』



アスカは、並大抵ではない努力の末、今、こうしてチルドレンとしてここに立っている

無論それは努力だけではなく、彼女を取り巻く運命の成せる技でもあった

そして今、僅か13才でありながらその傍らに二人の護衛を従える立場にある



アスカは意図して尊大に振舞うようにしているが・・・





本当は・・・自分が彼ら黒服の護衛たちよりもご立派などとは露程も思ってはいなかった






自分は“職務”のためになんか死ねない・・・・


アイデンティティーを貫くなんて生き方は無理




アタシはただ・・・・みんなに見て欲しいだけ・・・・




愛されたい・・・・だけ・・・




そんな邪な動機でエヴァに乗るんだもの・・・









『・・・あの・・・・さっきの続きですが・・・・』


『・・・え?』


『この仕事はペイもいいし、任務が完了したら有休も多く取れますので・・・』


『は?』


『それに・・・・ごく稀に、チャーミングなお嬢さんの護衛に付くこともありますので、そう悪くもないのですよ』





『・・・・・うそ・・・・・』





『・・・・・・』





『・・・・・・』





『・・・・・・』












『・・・・・プ―――――――――――ッ☆』







あまりにも即物的な理由に思わず噴出す




『くっくっ・・・・あ―――――っはっはっはっ☆ ひいい〜〜っ☆』




笑わずにはいられなかった



そんなコトで、命を賭けられる人もいる


私には、とてもそんな風には考えられない




考えられそうもない




『・・・可笑しいですか?』


『ううん・・・いいわねぇ・・・深刻になってるアタシの方がバカみたい☆』


そう言うとアスカはそそくさと部屋に入り、それからややしばらくしてからトレイに二組の珈琲を淹れて持って来る


『インスタントだけど、これ飲んで♪ これ位なら職務に差し支えないでしょ?』


『・・・・いや、しかし・・・』


『これは命令よっ! 飲みなさい☆』


『・・・わかりました(汗)』


『よろしい☆・・・飲み終わったら、カップは中に持ってきて♪』


そう言うと、アスカは”くすっ”と笑みを浮かべながら、再び部屋の中へと消えていった











『・・・・・何か・・・気が引けるな・・・・・』


珈琲をすすりながら黒服の一人が呟く


彼らはこうしてアスカの護衛をしてくれてはいても、アスカ本人が雇い主というわけではない







この時のアスカは、まだ気付いていなかった


彼らは単なる“護衛”ではない


チルドレンを絶えず監視し掌中に置く事こそが本来の目的であった





そう・・・





彼らこそは将棋の駒





時が来れば“裏返る”





・・・・彼らの任務には・・・・
























アスカの“更迭”や“排除”も想定されていた

























部屋に閉じこもったアスカは、備え付けの粗末なデスクに座り、ひとり頬杖をついていた


コンバートメントの密閉は思いのほか良いらしく、波の音一つ聴こえてこない・・・

外洋にあってニミッツ級の巨体は”揺れ”というものを知らず、クルージングは快適そのものと言えた







『はあ〜っ☆』



その静けさを一つのため息が遮る



シンジの戦闘パターン、思考・・・・




『・・・わからない・・・・』




もう何度見直したかわからない


なのに


どうしても、シンジの思考を越えることが出来ない





否・・・並ぶ事すら・・・出来なかった





『・・・あのスピードとパワーの秘密はわかったわ・・・』




アスカの導き出した推論・・・

それはあの高いシンクロ率とパワーとは比例関係にあるという事・・・




『・・・・多分・・・エヴァ本来の持つ潜在的なパワーを引き出しているのね・・・・』




そして・・・




『・・・その事実が・・・戦闘スタイルに多様性をもたらしている・・・・か・・・』






“技は力の中にある”






アスカが初めて加持に格闘技の手解きを受けた時に教わった言葉である

それは、同じ実力なら“力”が強い方が上という意味でもあるが
“力”があって初めて成し得る技もある・・・という意味合いも含まれていた


いずれにせよ、パワーがあった方が有利という事の意味と大差なかった



碇シンジの戦い方を見て、アスカにも多くの発見があった



自分だけでは今ひとつわからなかった事


エヴァの持つ力は、まだ底が知れない・・・・

こんなものではないらしい、という事



そしてパイロット次第では、エヴァの内に秘めた底知れぬ力をまだまだ引き出せるらしいという事実



『・・・・・てゆうか、アレ凄すぎ・・・・反則よね・・・・』



その点については、アスカは諦めざるを得なかった



現状でシンクロ率で劣っているという事実は、すぐにどうこう出来る問題ではない

使徒を圧倒するパワー感のある戦いは、とてもかなわない

それは予想していた事だった




アスカが問題としているのはそんな事ではない



『・・・相手が・・・どんな戦い方をするのかわからないのに・・・・・』



もう何度となく思い巡らせた思考・・・






『どうして最初から最適な戦術が取れるのよっ!?』






イライラが・・・・絶頂に達していた




偶然ではなかった


第四使徒シャムシエル・・・・第五使徒ラミエル・・・・・という、タイプの全く異なる使徒・・・

そのいずれの戦いにおいても、初号機の・・・いや、碇シンジの戦いぶりには何ら迷いのようなものは感じられなかった


特に、ラミエル戦における零号機との共同戦線には目を見張るものがあった

作戦部長である葛城一尉の反対を押し切り、前代未聞の作戦を展開

難攻不落と思われた使徒の盲点をついた、完璧な勝利だった




『・・・もう・・・わけわかんない・・・』




アスカの思考は、ループ状に固定されていた

どう考えても・・・・最終的には加持が否定していた結論に行き着いてしまう




『・・・・まいったわ・・・・堂々巡りだわね、これじゃあ・・・』


『ちょっと休も・・・』


流石に考え疲れたアスカは、ベッドに横たわる


潮風にさらされて、少しべたついた肌にシーツが纏わりついて気持ち悪かった


『・・・シャワー浴びたいなぁ・・・・』


日に二度はシャワーを浴びるほどの綺麗好きなアスカにとって、軍艦での生活はそれだけでもかなりのストレスだった


気を紛らわすために珈琲でも淹れ、一息つく事にする


アスカはどちらかというと紅茶派なのだが、“本気”モードになると何故か珈琲が飲みたくなる


カフェイン特有の香りが、鼻の奥から前頭葉を刺激しているような、そんな感覚が好きだった


無論それは錯覚に過ぎないのだが


ただ、あいにく軍艦の上なのでインスタントしかないのが辛かった


砂糖は入れない


甘いものは好き・・・・だけど珈琲には合わないと思った


琥珀色の香りに砂糖の持つ甘い香りが風味を邪魔していると感じるから



『まあ、インスタントに風味もないもんだけど』


琥珀色の液体をすすりながら、ぼんやりと碇シンジのデータファイルの一覧を眺める


『・・・・あたまいたい・・・』


アスカにしては、珍しく知恵熱が出る


『・・・はあ〜☆・・・・もう・・・何なのよ・・・コイツ・・・・・・ん?』



ふと、何かが目に留まる



『・・・・・何これ?』


アスカの瞳に、“nachschlagen!!”と書かれているフォルダが映る


『?・・??・・・・何だろ?』


何の気なしにファイルを開こうとしたが・・・


『・・・あら?・・・鍵付きィ?』


プロテクトがかかっている


『甘いわねぇ、加持さん!・・・この程度の防壁をアタシが破れないと思ってるわけ?』


そういうとアスカは、いくつかのパスワードを入力した後にあっさりとファイルを開く

もっとも、それは“nachschlagen!!”(『見るなよ!!)という加持の意思表示に過ぎないのだが


『そうやって隠されちゃうと、無性に覗いてみたくなっちゃうのよねぇ!・・・・どれどれ・・・・あ・・・・』


ファイルを開くと・・・





『・・・なによ・・・これ?』


それは・・・・碇シンジの日常の記録・・・


そして非日常をも含めた彼の全行動記録だった


『・・・うそっ!・・・何でこんなものが・・・?』


そこには



【データ収集:諜報二課】

【監修:葛城ミサト一尉】



と記されていた


それは、葛城ミサト以下諜報部により構成され、戦闘時やネルフでの訓練状況はおろか、学校での行動や自宅での過ごし方、はては登下校での出来事の詳細まで事細かに記されていた


しかも、画像やムービーまで添付されている



『な、何よこれぇ〜っ!』


明らかに、プライバシーの侵害であった


《いくらなんでも、こんなのが必要なわけぇ?》


やり過ぎだ、と思う


『ま、まさか・・・入浴シーンとかは無いわよねぇ・・・・・ゲッ!!・・・うそぉ!!』


しどろもどろしながらファイルを閉じる


『やっ、やだっ☆ ミサトってば、何考えてんのようっ!?  まさか・・・ソッチの気があるとか???(汗)・・・・・ん?』





《・・・・・え・・・・!?》





ここまできて、ふとアスカは思い至る


『・・・・これ(PDA)って確か・・・アタシのデータもあったわよねえ・・・・(汗)』


あまり想像したくない事だが・・・


『・・・ま、まさか・・・・・』


慌てて“S.A.Langley”のフォルダを調べる




《・・・ま、まぁ・・・いいんだけどさ・・・加持さんになら見られたって・・・》




顔を赤らめながら、覚悟を決めてファイルを開く


だが・・・・


『・・・ない!・・・・ない!!・・・・全くないっ!!!』


それらしき妖しげなデータは全く見当たらない


『はは・・・そうよね・・・加持さんがそんなことするわけないもん・・・』


何だか、喜んでいいのやら


《・・・アウト・オブ・眼中ってわけね・・・・ぐすっ・・・》


しばらく凹んだのち、再び気を取り直して本来の目的に戻ろうとする




しかし




そう思いながらふと、アスカはサード・チルドレンの行動記録が気になった



『・・・これって・・・見ちゃまずいわよねぇ・・・・でも・・・』



考えてみれば妙であった


何故、このようなストーカー紛いの資料が存在しているのだろうか?




《・・・加持さんが、意味もなくこんなものを所有しているわけがない・・・》



《・・・もしかして・・・・加持さんも?》




加持はああ言ったが、実は彼も“サード・チルドレン”の力に何か不審を抱いているのだろうか?

だとすれば、もしかしたらそこに彼の強さの秘密の一端が垣間見れるかも・・・

そんな淡い期待が、アスカの頭をもたげていた



『・・・あ・・・と・・・・別に・・・・コイツのプライベートには興味ないわけだし・・・・』



実際の所、同い年の男の子が、自分の前に立ちはだかる経験はアスカには初めての事だった


本人には、まだ自覚はないものの・・・・



そんな彼・・・・碇シンジ個人に少しだけ興味を覚えていた




『・・・ごめん・・・・ちょっとだけ・・・・いいわよね・・・・』




などと自分に言い訳をしながら、結局アスカはそれを開く

ファイルは、サード・チルドレンがネルフに来訪してから現在に至るまでの記録の中が階層的に分類されていた

彼の人となりを知るために、最初は日常生活での映像を見る





『・・・何・・・これ・・・』




それは・・・




アスカの思い描いていた“サード・チルドレン”の姿とは、あまりにもかけ離れていた



そこには、仲のいい友人たちとつるんでは、他愛のないやりとりに一喜一憂するだけの彼の姿が映っていた


学校が終わった後も、そのまま友人たちとゲーセンに繰り出すのが普通で、夕方には何故かスーパーで夕食の買い物をしていた



極めつけなのはその後だった



自宅に戻ると、彼はそのまま台所に立ち、夕食の支度をし始めた


そして、風呂の支度から洗濯、部屋の掃除に至るまで、家事全般を彼が行っていた





『・・・ちょっと待ってよ・・・何よこれ・・・・』





アスカは愕然とする





朝になれば、二人分の朝食を作り、ミサトを起こしてからの登校


ただ、それの繰り返しの毎日だった





『・・・アンタ・・・何やってんのよ・・・・・アタシ達、チルドレンなのよ・・・そんな事やってる場合じゃないでしょうに・・・・』





確かに、アスカの言うとおりだった





かくいう彼女も、来るべきこの日のために空いた時間を可能な限りシンクロ・テストや起動実験に費やしてきた

ヴィルヘルムスハーフェンを出港する直前まで、それは変わらなかった



なのに、この少年は起動実験にも参加せず、定期的なシンクロ・テストの時以外はネルフに近づこうとさえしない


彼の立場なら、わざわざ自分で食事を作ったり、その他の雑務だってしなくても済むはずなのに・・・





『ミサトもミサトよっ! なんだってこんな事やらせてるワケぇ?』





実際、これでは彼はまるでミサトの“保護者”のようなものである



もう一人の“適格者”であるファースト・チルドレンのデータも閲覧したが、こちらは“サード”とは対照的に、その時間の殆どをネルフに詰めて過ごしていた


学業も片手間に、徹夜での実験参加さえ珍しくなかった


友人たちとの交流も、殆ど見受けられない




アスカから見れば、“ファースト”の対応こそがむしろ当然と思えた





エヴァとのシンクロは、そう簡単な事ではない





表面では“当然よ!”と振舞っていた彼女だが、内心は余裕などありはしなかった




いつだって全力で挑んでいた・・・




出来る努力は、何だってした





そうやって・・・・ここまで、来た








そのはず・・・・なのに・・・








彼、碇シンジは、ほんの3ヶ月まえに初めてエヴァに乗ったばかりだというのに・・・・




つまらない事で貴重なチルドレンとしての訓練の時間を浪費しているようにしか思えない






『・・・・随分と・・・・余裕なのね・・・・』








“恐れ”が・・・・“反感”に変わる








アスカの見る限り、碇シンジは物事に対して常に穏やかで、ごく普通の対応をする








だが








その後に流れる戦闘時のエントリー・プラグ内の彼の姿を見た時





その“普通さ”が異常に感じられる





彼の穏やかな表情は戦闘中でもテストでも変わらない・・・


だがそれとは裏腹に




その外では・・・・・“惨劇”が繰り広げられていた




“殲滅”という名の“虐殺”




未知の存在である使徒が相手であるにもかかわらず・・・・・



彼は眉一つしかめる事無く



穏やかに・・・・それを実行していた



そこには恐れや・・・・試行錯誤といった感情は見受けられない



まるで、一度クリアしたゲームをもう一度プレイするような・・・







それは・・・・とても異常な事に思えた








『・・・・っつ!』


アスカは舌打ちする


知れば知るほどわけがわからなくなる・・・・






・・・・・いや・・・・











アスカの中で、理屈ではない一つの確信に至る










『・・・・・間違いない・・・・』


















『・・・・コイツ・・・・』



























『・・・・使徒の事を・・・・・・・知っている!!・・・』















2007/1/4 掲載